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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)5179号 判決 1971年12月24日

原告

杉山彬

右代理人

橋本敦

ほか四六名

被告

大阪府

右代表者知事

黒田了一

右代理人

道工隆三

ほか一〇名

主文

被告は原告に対し金一五万円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告が大阪弁護士会に所属する弁護士であること、友田但馬が大阪府警察本部警備部警備課に所属する警察官であること、大阪府警察本部警備部警備課および枚岡警察署は昭和四〇年四月二五日午前一〇時すぎごろ、枚岡市し尿処理現場設置反対運動にともなう威力業務妨害、水利妨害ならびに暴力行為等処罰に関する法律違反事件の被疑者として、地元住民である訴外浜口嘉男、同竹中愛和、同山口重太郎を逮捕し、それぞれ布施警察署、寝屋川警察署、河内警察署に分散留置したこと、原告が遅くとも同日午後四時三〇分ごろまでに布施署を訪れ、浜口嘉男の取調官であつた友田に対し、弁護人として浜口嘉男との接見を求めたこと、しかし友田は刑事訴訟法第三九条第三項に所謂指定をなさないまゝ約四時間に亘り右接見を拒否したこと、原告が同日午後八時二五分から三五分まで浜口嘉男と接見したことはいずれも当事者間に争いがない。

二右当事者間に争いのない事実と、<証拠>を総合すればつぎのような事実を認めることができる。

(一)  大阪府警察本部警備部警備課および枚岡警察署(前記被疑事件の捜査本部は同署に置かれた。)は、昭和四〇年四月二五日午前一〇時すぎごろ、前記の嫌疑によつて浜口嘉男、竹中愛和および山口重太郎を逮捕し、それぞれ布施警察署、寝屋川警察署、河内警察署に分散留置した。

(二)  被疑者竹中愛和が原告を弁護人に選任する旨申し出たので、宮里(同人は府警本部警備部警備課に所属する警察官で、捜査主任官高井岩太郎を補佐して右事件を指揮し、内部的に弁護人または弁護人になろうとする者と被疑者との接見について時間等を指定する権限を有していた。)は、接見の指定について原告と協議する意図のもとに原告の執務する弁護士加藤充法律事務所に電話をかけたが通じなかつたため、さらに加藤弁護士の自宅に電話し、同弁護士の妻に逮捕された竹中が原告を弁護人に選任すると申し出ている旨および枚岡署にいる宮里に電話してもらいたい旨を原告に伝えてもらうことを依頼した。

(三)  原告は同日午後二時すぎころ、至急電報により地元住民前記三名の逮捕を知り、被疑者らと接見するため自宅を出て、一旦加藤法律事務所に立ち寄つて、そこから加藤弁護士宅に電話をかけ、同弁護士の妻から逮捕された地元住民三名の氏名、留置先の警察署それに枚岡署の宮里に電話してほしい旨の前記の伝言を聞いた。

(四)  原告は同日午後三時三〇分ごろ宮里に電話をかけ、被逮捕者三名の氏名、留置先、罪名を確認し、宮里が「どこからまわられますか。」と尋ねたので、「とにかく布施署からまわらしていただきます。これから行かしてもらいますからよろしく御連絡願いたい。」と言つたところ、同人は「先生接見は結構ですが指定書がないとあきまへんで。」と言つたことから、弁護人の被疑者接見について指定書持参要求の当否をめぐり、論争となつた。原告が「ぼくはきみの許可を得て接見するんではないんですよ。」と述べたところ、宮里は「きみとはなんだ。お前いつからそんなえらそうな口をきくようになつたか。」と繰り返すので、原告はこれから布施署に赴く旨を再度述べて電話を切つた。

(五)  原告は宮里との論争から布施署における浜口嘉男との接見が妨げられるとの危惧を感じ、情況によつては大阪地方裁判所の裁判官から、接見勧告をしてもらおうと考え、令状部に電話をかけ、裁判官の在庁時刻を問い合わせたところ、午後四時三〇分までしかいないとのことだつたので、その時刻まであまり時間もないところから、やむをえず電話を切り、接見をめぐる紛争を予想して基本六法を携帯し、布施署に向かつた。

一方、宮里は、浜口嘉男の取調官である友田をはじめ各留置先の捜査員に対し、電話で、原告が来署したら、被疑者に再度弁護人選任の意思を質し、選任の意思を表明すれば、原告に対し捜査主任官が接見の指定をする旨説明するよう指示した。

(六)  原告は午後四時三〇分ごろ布施署を訪れ、友田に対し浜口との接見を求めたところ、友田は、「浜口は弁護人はいらないと言つている。」と答えたので、原告は名刺の裏に簡単な文章を書き込んで、友田に交付し、それを示して、もう一度弁護人選任の意思を確かめてほしい旨依頼した。友田は二階取調室(警備係室)に引き返し、浜口に原告を弁護人に選任するか否かを尋ねたところ、選任の意思を表明したので、その旨原告に伝えた。そこで原告は「そしたら面会をお願いします。」と言つて、弁護人としてはじめて浜口との接見を申し入れた。すると友田は「指定書を持つていますか。」と尋ね、原告が「ぼくは持つてません。」と答えると、友田は「そしたら指定書がなければ面会できませんよ。」と述べた。原告は基本六法の刑事訴訟法第三九条の規定を示したりしながら、接見につき弁護人が指定書の持参を要求される筋合はなく、弁護人が指定書を捜査本部まで取りに行つて、それを持参しなければ面会できないという運用はあきらかに刑事訴訟法第三九条に違反すると述べて直ちに接見させるよう強く求めた。しかし、友田は「捜査主任官の指定を受けてもらうか、あるいは指定書を持つてきてほしい」旨述べて、あくまで接見を拒否した。

そこで原告はあくまで浜口との接見を果すため、二階取調室のある奥の方へ向かつて歩き始めたところ、友田は浜口を取調中のことでもありあわてて「おい、どこへ行くんだ。行つたらいかん。」と叫び、原告のあとを追いかけ、その行く手に両手を八の字にあげて立ちふさがり、さらに原告が前進しようとするのを、両手を原告の胸にあてて、押すような態度をとつた。原告は「弁護人選任書をとるだけであるから、五分間だけでいいから面会さしてほしい。」と頼んだが、友田は「捜査主任官の指定を受けてもらうか、あるいは指定書を持つてこなければ会わせない。」との趣旨を述べながら、両手で原告の胸を突いたので、原告は「きみはぼくの接見交通権を妨害するのか。面会をさせろ。きみは暴力をふるうのか。」と大声で抗議したが、友田は「弁護士がなんじゃ。弁護士だといつて大きな顔をするな。」と叫びながら、原告の胸部付近を反覆突きやつた。右紛争の過程において原告は治療四日を要する左手背挫創の傷害を負つた。

(七)  友田は二階に引き返し、防犯係室で、捜査本部の宮里に右の状況を電話報告し、取調室に戻つた。一方原告は友田の立ち去つた後、しばらく庁舎内の公廨にいたが、やがて二階の取調室の前まで行き、引き戸越しに、「弁護士の杉山だ。浜口さんいるか。」と浜口に声をかけ、友田に対し、引き戸をたたきながら接見させるよう求めたところ、友田は引き戸をあけて出るなり、原告に対し強く階下への退去を求め、原告が容易に応じそうにないとみると階段降り口の辺まで原告を押して行つて突き放し、原告の上体が倒れるようになつたので、友田もあわてて原告を引き戻そうとしながら両者もつれ合つた状態で共に踊り場まで降りてしまい、そのさい原告の腕と友田の腕とがぶつかり、原告が右手首にはめていた腕時計の鎖がはずれて踊り場に落ちてしまつた。そこで友田はその場で布施署の成沢巡査に命じて修理のため腕時計を持ち去らしめたうえなおも階下に降りることを拒否して階段の手すりにしがみついている原告を階下に引きずり降ろし、原告の手をつかんだまま公廨に連れていつた。

(八)  友田はそれから二階に引き返し、防犯係室から捜査本部の宮里に電話をかけて、右情況を報告し、取調室に戻つたところ、当直責任者が呼びにきたので公廨におり、原告と椅子に腰をおろして再び接見について話し合つた。原告は「五分でもいい、三分でもいい、選任書をとるだけだから会わしてくれ。」と申し入れたが、友田は「とにかく会うことについては私一存ではいかないんだから、捜査本部の方に接見の指定を受けてくれまへんか。」と述べ、結着がつかなかつた。そこで友田は、自ら捜査本部の宮里を電話に呼び出したうえ受話器を原告に差し出した。

原告は宮里に対して、「指定書がなければ面会をさせないのか、これから枚岡署まで指定書を取りに来いというつもりか。君は接見を禁止する気か。」と繰り返し尋ねたが、宮里は、「接見を禁止するとは一言もわたしはいつておりませんし、事見禁止できるものでもありませんよ。先程わたしがその時間を指定さしていただくべくしておるときにどうしてじゃ切られたんですか。」と繰り返すばかりなので、原告は電話を切つた。

やがて原告は成沢巡査から時計店で修繕してもらつた腕時計を受けとり、自分は暴力まで振われて接見交通権を妨害された。自分はこの問題は後日必ず問題にする。」と言い残して、一旦布施署を出た。

(九)  原告は近畿日本鉄道小坂駅付近の公衆電話で東中法律事務所の仲重信吉弁護士、日本共産党東部地区委員会の荻原正幸、および毎日新聞社等に電話をかけ、布施署での経過を要約説明し、それぞれ布施署まで来てほしい旨依頼したがそのうち小坂駅前で地元住民川西音吉および大西某と出会い、そこに荻原正幸もかけつけたので、右三名をともない午後六時すぎごろ、再び布施署を訪れ、公廨受付の警察官に友田との面会を求めたところ、同警察官は友田が指定書を持つてこない以上会つても意味がないと言つている旨伝えた。

そこで原告ら四名は、二階取調室に赴こうとしたが、原告を除く三名は階段踊り場で隈元巡査に制止され、原告一人取調室の前に行き、「浜口さんいるか、がんばれよ。」と大声をあげたところ、友田は廊下に出て、「接見させないとは言つていないんだからそんな強引に入つてきてもらつたら困ります。」等と述べ、原告は「すぐ会う権利がある。とにかく会わせろ。」と言い、しばらく応酬していたが友田は原告の背後にいた布施署員に向かつて「こいつを庁舎管理規則で外へ出してしまつてくれ。」と言つた。布施署員は原告に「ここんところはいつたんお帰りになつたらどうですか。」と勧告したので、原告は同署員の方に向きをかえ、友田に背を向けた姿勢で、「いや、この問題は、弁護人の重要な接見交通の問題であるからあなたがたは今しばらくみておつてほしい。」と答えたが友田は矢庭に、原告の後ろから原告の両脇に自己の両腕を差し込み、完全にかかえあげて廊下を走り出し、階段中途の踊り場まで原告を連れ降ろすなり、そこにいた布施署員に向かつて「こいつを上にあげるな。」と命令して取調室へ引きあげ捜査本部の宮里に電話で情況を報告し、且つ宮里自身来署するよう要請したところ宮里からできるだけ早く行く旨の返事をえた。一方原告は布施署員に腕をつかまれたまま階下に降りたところへ宮里から電話があり、同人が「あんた捜査を妨害するつもりか。」と言うので、原告が「いや妨害するつもりはない。いつたい指定書がなければ会わさんというふうにあくまでも言うのか。」と述べると、宮里は「さつきなんで、電話切つたりしよつたんだ。」とくり返し言うので、原告の方から再び電話を切つた。

(十)  宮里は午後七時三〇分ごろ布施署に到着し、関係警察官から事情聴取した後、原告を署長室に招じたが、原告は論争が長びいて接見が遅らされるのではないかと危惧し、署長室へ入ることを躊躇していた折から仲重弁護士が来署したので、同弁護士とともに署長室へ入り、原告らから「指定書がなければ接見できないのか。」と問い質したのに対し宮里は「指定書がなければ面会できないということはない。枚岡署まで指定書を取りに来いと言つたことは一度もない。普通の場合は弁護人と電話で連絡して指定し、別に指定書を持参しなくてもさしつかえない。ただ弁護人がたまたま捜査本部に来たときに指定書を渡すこともある」旨答え、しばらく論争が続いたが、その頃友田から、接見の準備ができた旨報告があつたので原告およびその場で選任手続をした仲重弁護士は午後八時二五分から三五分までの一〇分間浜口嘉男と接見した。

以上の事実が認められ、<反証排斥―略>

三ところで刑事訴訟法第三九条の規定するところによれば、弁護人は捜査官から第三項の指定を受けない限り法令の制限内において立会人なくして自由に、身体の拘束を受けている被疑者と接見することができ(第一項、第二項)、他方捜査官は捜査のため必要あるときは公訴の提起前に限り被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限しない範囲で、接見に関してその日時、場所及び時間を指定することができる(第三項)ところ、友田は司法警察職員として自らも右の指定権を行使して接見に関し日時等の指定をなしうる立場にありながら、原告に対し捜査主任官の発する指定書の持参又はその指定を受けるよう要求するのみで、自らは右の指定をしなかつたことは前記のとおりであるから原告は弁護人として被疑者である浜口と自由に接見する権利を有していたものというべきであり、しかして原告が右の接見交通権に基づき浜口との接見を申出たのに対し友田が約四時間に亘りこれを拒否したことも前記のとおりであるからこれが違法であることは明らかである。

尤も被告は、弁護人が被疑者との接見を申出た場合捜査官は接見指定の要否等について判断するのに必要な合理的時間内は被疑者との接見を許さないことができ、これを本件についてみるとその主張のような事情の下においては原告が最初友田に接見の申出をしてから最後に接見を遂げるまでの約四時間は右に所謂合理的時間に含まれるから友田がその間原告の接見を拒否したことは違法でないと主張する。なるほど捜査官が右の接見に関する指定をなすに当たつては捜査のための必要性の有無の判断のみではなく、かりに捜査のため指定が必要だとした場合でも同時にそれにより被疑者の防禦権が不当に制限されることがないよう慎重な配慮がなされなければならないから、弁護人から接見の申出がなされた場合指定をするか否か、指定をするとしていかなる指定をするかを判断するのに通常必要な合理的時間内は弁護人と被疑者との接見を許さなくても違法でないことは被告主張のとおりと解せられるのであるが、本件では友田は捜査主任官自身の指定がなされていないとの一事を以て唯一途に接見を拒否し自らは接見指定に関し何等の処置もとらうとしなかつたことが明らかであるから、被告主張の合理的時間が具体的にいかなる範囲の時間であるかを詮索するまでもなく右の主張はその前提を欠き失当であるから、友田の所為が違法だとする前記の結論には変わりがない。

しかして一般に弁護人が前記のような内容の接見交通権を有すること、司法警察職員が接見に関する指定権を有することは前記のとおりいずれも刑事訴訟法の明定するところであり、捜査官たる者は国家刑罰権のような強権の行使に当たる者として、同法はもとより広く刑事手続に関する法令には充分な理解を持ち、いやしくも弁護人その他の事件関係者の人権を侵害することのないよう万全の注意をする職務上の義務があることは多言を要しないから、かりに被告が主張するように警察の内部規律上は右の接見に関する指定権は捜査主任官が行使し、従つて一捜査官にすぎない友田においてこれを行使することができないこととされ(犯罪捜査規範、被疑者留置規則)、同人が捜査主任官からその旨の指示を受けていたとしても、右制限はあくまで捜査官憲の内部的規律に止まるものと解せられるのであつて、対外的に弁護人に対する関係においてまでも自己に右の指定権行使が許されないものとの誤解にもとづき原告の接見申出を拒否した友田の前記違法な所為には過失あるを免れないというべきである。

そして以上からして原告は友田の前記所為により不当に接見交通の実現が阻止遅延せしめられ、これにつき精神的苦痛を被つたことが認められるところ、これが苦痛を慰藉するに足る金額は、接見交通権の重要性、原告が接見を拒否された時間、布施署における前記認定のような原告の具体的行動態様の全経過等諸般の事情を総合斟酌すれば金一〇万円と認めるのが相当である。

ところで原告は、友田に対し接見の申出をしその拒否にあうや自力でこれを遂げるため同人が浜口を取調中の二階取調室まで赴こうとし、あるいは同室前まで行つた際友田から制止され、あるいは実力で阻止されたことを以て接見交通権に対する侵害であると主張するが、接見交通権は弁護人において現に被疑者の身体を拘束中の捜査官に対しこれとの接見をなしうるよう必要な協力を求め、かつその結果としてなされる弁護人と被疑者との接見を受忍すべきことを義務づける内容の権利であるに止まり、捜査官が不法にその協力を拒み、因つて弁護人と被疑者との接見の実現が事実上阻害されたからといつて右の権利の効力として、当該捜査官の拒否にも拘らずこれを無視し、その制止を冒して弁護人自ら自力を以て事実上に当該接見交通を実現することまでも正当視せしめるものとは解されない(この場合には準抗告の申立等の法的救済手段に訴えるべきである。)から、友田の右の所為をとらえて接見交通権に対する侵害であるということはできず、この点の原告の主張は失当である。

しかし原告は予備的に友田の右の所為をとらえて原告の名誉等個人人格に対する不法行為であると主張しこれが損害の賠償を求めているので前記二の認定事実によりその当否を判断する。

(六)に認定の事実によると原告が友田の違法な接見拒否を納得せず自力で接見を遂げようとして二階取調室に通じる階段の方へ歩き始めた際友田は原告に対し「弁護士がなんじや、弁護士だといつて大きな顔をするな」と叫びながら原告の胸部付近を反覆して突きやり、その過程において原告の左手背に加療四日を要する挫創を負わせたものと認められる。ところで原告が自力で接見を遂げようとした行為はそれ自体接見交通権の行使と認められないことは前記のとおりであり、現に遂行中の被疑者浜口に対する取調べを妨害されるのを防止するため友田において法律上正当にこれを制止ないしは阻止することができるものと解せられるが、そのためには口頭で制止する一方その行く手に立ちふさがるなどして原告の進路を阻めば足りるというべきであつて友田の右阻止行為はその程度を超えたもので、原告の胸を突き暴行を加えたこと自体が違法であることはもとより更には右のような言辞を弄したことも原告の名誉を毀損するものとして違法というべきであり、これが原告に対する不法行為を構成することは明らかである。

なお原告は友田が原告の行動を実力で阻止した一連の行為をとらえてそのいずれもが原告に対する不法行為であると主張するもののようであるが、前記(七)及び(九)に認定の阻止行為についてみると、友田の言動には多少妥当を欠くと思われる点がないでもないが、原告がさきの制止にも拘らず、また何の断りもなしに、現に被疑者浜口を取調中の二階取調室の前まで上つてきて、その出入口の戸を叩いたり、大声で浜口に呼びかけたりなどして取調べの妨害となる行為に及んだのに対し、これを排除するため友田及びその指示を受けた布施署員において原告の体を押しあるいは腕を掴んで引くなどして取調べの妨げとならない一階公廨付近まで連れ戻すのは当然許された行為であるというべきであるから、右に認定の程度の行為をとらえてこれを原告に対する不法行為であるというのは当たらないと解すべきである。

しかして原告は友田の右不法行為により精神的苦痛を被つたものと認められるところ、原告の布施署における前記認定のような一連の具体的行動態様の全経過を含めて右の不法行為がなされるに至つた経緯、その態様それに原告が弁護士であること、弁護士の社会的地位等諸般の事情を考慮すれば、右の苦痛を慰藉するに足りる金額は金五万円が相当であると解すべきである。

四そして友田が前記不法行為の当時被告のためその公権力の行使にあたる公務員であつたことは当事者間に争いがなく、また原告に対する前認定の不法行為は友田がその職務を行なうについてなしたものであることは明らかであるから、被告は友田の不法行為によつて原告の被つた前記の損害を賠償すべき義務がある。

なお被告は原告が単に名目的な損害賠償を求めているから許されないと主張するけれども、かりに名目的な損害賠償請求が許されないとしても、原告が名目的な損害賠償を求めているものでないことは、前認定の事実にてらし明らかであるから被告の右主張も失当である。

五よつて原告の本訴請求は前記の限度で理由があるから正当として認容し、その余は失当であるから棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(日野達蔵 松井賢徳 仙波厚)

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